2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震

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単純震源遡及法を用いて2011年3月11日14時46分から25分に渡って起こった東北地方太平洋沖地震と3月9日に起こったマグニチュード7.2の三陸沖地震の断層破壊を解析しました。滑りを起こした断層の分布は重なるものが少なく、マグニチュード9.0の地震との関係は厳密に言う前震と余震(震源領域内に本震も前後に起こる地震)で無いことが分かります。これらの地震は滑りが起こった断層の端近くから破壊が始まり、まだ滑りが起きていない領域に進行するため誘発地震であると考えられます。もしこれらの断層が2010年のチリ地震のように連続して滑っていれば、14時46分に起こった地震よりも大きくなっていました(最大マグニチュード9.4)。
この結果から本震を異なる領域を破壊した地震の集まりと再定義できます。この集まりを超本震と呼ぶとすると、余震の震央分布と超本震での破壊領域が概して重なるはずです。単純震源遡及法でデータ解析を行うと、超本震を構成する一つ一つの地震を識別する事ができます。これらの構成地震は3月11日14時46分に破壊が始まってから25分以内に発生し、総合すると北緯約36度から約40.5度までのプレート境界面が滑ったことが分かります。

断層破壊の進行


断層破壊進行の高画質アニメーション(QuickTime Movie約96MB)を希望される方は石井水晶またはEric Kiserまでご連絡ください。

3月11日14:46から3月11日15:11までのUSArray Transportable Array網を利用して画像化された断層破壊の進行動画(右)。プロット量は高周波域のエネルギー放出量に比例します。暖色は大きいエネルギーの放出を示し、寒色は少ないエネルギー放出を示しています。赤い星は震央を、黒い線は海溝を、灰色の線は海岸線を表します。地震の破壊開始からの時間表示は動画の右下。
この動画はまず3月9日に起こった三陸沖地震の破壊領域(黄色の線)が3月11日14:46に始まる地震の震央に近いところである事を示しているところから開始します。
個別の断層破壊が終了すると滑った面積の輪郭が描かれます。赤で表された輪郭はマグニチュード9の地震の破壊領域で白で表された輪郭はそれ以外の断層になります。
動画の最後頃には3月11日と3月12日に発生した大きな地震の輪郭が足されていきます。これらの地震は3月11日、15:15:45 (Mw 7.3), 15:25:51 (Mw 7.4 outer riseでの正断層型地震), 16:14:56 (Mw 6.7), 17:12:04 (Mw 6.6), 17:19:24 (Mw 6.8), 20:36:39 (Mw 6.7), と3月12日10:47:16 (Mw 6.8)です。このうちの幾つかは誘発地震とみられますが、破壊面の広さは最初の25分からそれほど広がりません。動画はすべての破壊面の輪郭と3月11日から3日以内に起こった余震の分布(黄色の点)を比べて終了します。 左の地図は3月11日の震央を赤い星で、3月11日以後の震央を赤い点で、3月9日に起こった地震を黄色の点で表しています。
3月11日14:46から25分以内に起こった地震についてのもうすこし詳しい説明はこちら


超本震の地震破壊域と相対的なエネルギー放出のタイミング

相対的なエネルギー放出の分布 エネルギー放出のタイミング

3月11日14:46から25分以内に滑りが起きた場所での地震エネルギー放出の分布図(左)。濃いオレンジ色はエネルギーが相対的に多く放出されたことを表します。震央よりも陸側で大きなエネルギー放出があることが分かります。南に位置する領域では繰り返して起こった余震の影響もあり濃い色になっています。個々の断層から放出されるエネルギーは一定ではなく、かなりの差があります(右)。従って、動画の色の幅は破壊領域が分かりやすいように時間によって変化するものが使われています。
破壊面はとぎれていますが、総合すると長さ約480km、幅約170kmのプレート境界で超本震が起こった事がはっきりします。


過去に三陸沖で発生した地震との比較

過去に津波被害を起こした地震の震源域(青の輪郭; 羽鳥, 1987)と超本震で滑った断層のエネルギー放出分布の比較。エネルギー放出が大きかった震央より西と南に位置するセグメントは過去にも地震を起こした事が分かります。最南の二つの津波地震の輪郭は1938年と1936年のものです。最北に位置する断層は過去に何度も津波地震を起こしている事が分かります(1994年、1968年、1960年、1931年、1901年など)。


4月7日の宮城県沖Mw 7.1余震

3月11日の本震以後、最大の震度が観測された宮城県沖余震は地震波エネルギー放出が特に大きかった断層で起こりました。この範囲は本震以降、大きな余震が無く、単純震源遡及法の連続解析では余震空白範囲となっていました。
宮城県沖余震では40秒程かけて地震破壊が起きていますが、二つの破壊過程があります。最初は震央付近で大きなエネルギー放出が15秒程かけて起こります。この破壊は北に進み、二つ目の破壊が地震開始から20秒前後に始まります。このエピソードは20秒程かけて海溝に向かって進みます。これらの破壊過程は本震で動いた断層の一番深いところで起きており、最大のエネルギー放出があった範囲を避けるように余震が起こっているのが分かります。


単純震源遡及法で解析されたその他の地震

2004年12月26日 マグニチュード9.3 スマトラ地震
2010年2月27日 マグニチュード8.8 チリ地震
2011年3月11日 マグニチュード9.0 東北地方太平洋沖地震の初期解析結果 (2011年3月12日)

参考文献

羽鳥徳太郎、1987.
寛政5年(1793年)宮城沖地震における震度、津波分布.
地震研究所彙報 62, 297-309.

Ishii, M., Shearer, P.M., Houston, H., & Vidale, J.E., 2005.
Rupture extent, duration, and speed of the 2004 Sumatra-Andaman earthquake imaged by the Hi-Net array.
Nature, doi10.1038/nature03675.


謝辞

USArray Transportable ArrayデータはIncorporated Research Institutions for Seismology Data Management Centreからインターネット経由で入手しました。



ハーバード大学地震学のページ(英語)


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Department of Earth & Planetary Sciences
Harvard University
20 Oxford Street, Cambridge, MA 02138 U.S.A.